はじめに
パワーエレクトロニクスは、シリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)、GaN HEMTなどの半導体に大きく依存しています。Siは従来からの選択肢でしたが、SiCデバイスは優れた性能と信頼性により、人気が高まっています。Siと比較して、SiCには数多くの技術的な優位性があり(図1)、電気自動車(EV)、データセンター、そしてDC急速充電、エネルギー貯蔵、ソーラーインバーターのようなエネルギーインフラなど、多くのアプリケーションで、SiCが新たな主要技術となった理由を容易に理解できます。
SiCカスコードJFET技術とは
多くの最終製品メーカーが、バイポーラジャンクショントランジスタ(BJT)、ジャンクションゲート電界効果トランジスタ(JFET)、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)に基づく電源を開発するのに、Si技術ではなくSiC技術を採用しています。これらのデバイスには、それぞれに異なる長所と短所があり、使用されるアプリケーションも異なります。
しかし、オンセミのEliteSiCカスコードJFETデバイス(図2)は、この技術をさらに進化させました。これらのデバイスは、独自の「カスコード」回路構成を採用し、ノーマリーオンSiC JFETデバイスとSi MOSFETを同一パッケージに収容して、ノーマリーオフ集積型SiC FETデバイスを実現しています。オンセミのSiCカスコードJFETは、IGBT、スーパージャンクションMOSFET、SiC MOSFETなど、どのデバイスタイプでも容易かつ柔軟に置き換えることが可能です(図3)。
このブログでは、オンセミのEliteSiCカスコードJFETにはSiC MOSFETと比較して、どのような利点があるかを説明します。
SiよりもSiCを使用する利点
SiCカスコードJFETには、Siデバイスに対する利点がいくつかあります。SiCはワイドバンドギャップ材料なので、Siデバイスよりもブレークダウン電圧が高く、はるかに薄いデバイスを使用して高電圧をサポートできます。Siに対するSiCのその他の利点は、以下のとおりです。
- 特定の電圧および抵抗クラスでは、SiCはSiよりも高い動作周波数を実現でき、それによって部品の小型化が可能になるため、システム全体のサイズとコストを削減できます。
- 高い電圧クラス(1200V以上)では、SiCは低電力損失で高周波スイッチングが可能です。これらの電圧クラスのSiデバイスは事実上存在しません。
- どのパッケージでも、SiCはSiよりも低いオン抵抗(RDS(ON))と低いスイッチング損失を実現できます。
- SiCはSiと同じ設計でも、より高い効率、熱性能、より高いシステム電力定格を実現します。
SiCカスコードJFET:優れた性能を達成しながらSiからSiCへの移行を簡素化
これらの利点は、何種類かの電源アプリケーション向けに最適化された、より新しく高性能なデバイスであるオンセミのEliteSiCカスコードJFETの性能にも反映されています。
ゲートドライバーとの互換性:SiCへのシームレスな移行が可能に
まず、SiCカスコードJFETのアーキテクチャーでは、標準的なSiゲートドライバーの使用が可能です。これにより、Siベースの設計からSiCへの移行が簡素化され、設計の自由度が向上します。これらは、IGBT、SiスーパージャンクションMOSFET、SiC MOSFET用に設計されたものを含め、多様なゲートドライバータイプと互換性があります。
その他の利点
- 業界最低レベルのドレイン-ソース間オン抵抗RDS(ON)を実現し、所定のパッケージでのシステム効率を最大化します。
- 静電容量が低いためより高速なスイッチングが可能で、高い動作周波数を実現します。これにより、インダクターやコンデンサーなどの容積が大きい受動部品のサイズをさらに低減できます。
- 高い電圧クラス(1200V以上)のSiCカスコードJFETは、Si IGBTよりも高い動作周波数が可能です。従来この市場セグメントではSi IGBTが使用されてきましたが、Si IGBTは一般的に動作が遅く、低周波でのみ使用されるため、スイッチング損失が大きくなります。
- オンセミのEliteSiCカスコードJFETデバイスは、所定のRDS(ON)に対して、より小型のダイサイズを可能にしており、SiC MOSFET特有のゲート酸化膜の信頼性に関する懸念を軽減します。
SiC MOSFETとオンセミのSiCカスコードJFETの詳細な比較
次にSiC MOSFETとオンセミのSiC JFET技術の違いについて詳しく見ていきましょう。以下の図3に示すように、SiC MOSFET技術は、オンセミの集積型SiCカスコードJFETとは設計思想が異なります。オンセミのSiC JFETを使用すると、SiC MOSFETのゲート酸化膜層が不要になり、チャネル抵抗が除去されるので、ダイサイズが小さくなります。
オンセミのSiC JFETの小型ダイサイズは、重要な差別化要因であり、図4に示すように「RDS(ON) x A」(RdsA)の性能指数(FOM)として表すことができます。これは、所定のチップサイズに対してSiC JFETのオン抵抗定格がより低い、言い換えれば、所定のRDS(ON)に対してオンセミのSiC JFETはより小型のSiCダイを使用することを意味します。オンセミはRdsA FOMに関して業界をリードしており、その技術力はTOLLやD2PAKなどの比較的小型の業界標準パッケージに収納され、非常に低い抵抗定格を持つ製品ラインナップに反映されています。
EliteSiCカスコードJFETは、SiC MOSFETと比較して出力容量Cossが低くなっています。出力容量が低いデバイスは、少ない負荷電流で高速なスイッチングが可能であり、容量を充電する際の遅延時間が短くなります。つまり、インダクターやコンデンサーなどの容積が大きい受動部品の必要性が減るため、電力密度が高く、より小型・軽量で低コストの最終機器を実現できるようになります。.
SiC MOSFETには、以下に示すようなその他の課題もあります。
- SiC MOSチャネル抵抗が高いため電子移動度が低下する。
- 高いゲートバイアス下では Vth がドリフトする可能性があるため、ゲート-ソース間電圧駆動範囲が制限される。
- ボディーダイオードのニー電圧が高いため同期整流が必要。
しかし、以下の理由からオンセミのSiC JFETを使用すると、これらの短所が解消されます。
- SiC JFET構造には、デバイス上にMOS(金属酸化物)構造がないため、デバイスの信頼性が向上する。
- チップ面積が同じ場合、ドレイン-ソース間抵抗が低くなる。
- 静電容量が少ないため、スイッチング遷移を高速化および高周波数化できる。
オンセミのEliteSiCカスコードJFETが選ばれる理由
市場ではさまざまなSiCパワー半導体デバイスを選択できますが、アプリケーションによって向き・不向きがあります。そのSiC技術の一つが、オンセミの集積型SiC「カスコード」JFETです。この技術は、低いRDS(ON)、低い出力容量、そして高い信頼性を達成しており、卓越した性能を発揮できる独自の地位を確立しています。また、SiCカスコードJFETアーキテクチャーは、標準Siゲートドライバーを使用しており、移行が容易で、既存の設計への導入が可能です。そのため、SiからSiCへの移行を柔軟かつ容易に行うことができ、SiC技術によって優れた性能も実現できます。
これらの性能指数は、オンセミのSiCカスコードJFET技術が、他の技術では及ばない領域において、優れた性能を発揮する上で役立ちます。SiC JFETの性能向上により、AIデータセンター、エネルギー貯蔵、DC急速充電器向けAC-DC電源ユニットにおいて、より高い効率を達成できます。より高い電力密度と小型化に対する要求に応え、オンセミのSiCカスコードJFETは、最終製品の小型化、軽量化、低コスト化に貢献します。インダクターやコンデンサーなど容積の大きい受動部品の必要性が減るため、電力密度の向上が可能になります。
オンセミのEliteSiC JFET製品ページで、各製品情報をご確認いただけます。
また、詳細については、SiC JFETカスコードのカスコード入門:動作原理もご覧ください。
オンセミのSiC JFETのエキスパートがAPEC2025に参加を予定しています。技術に関する詳細な情報が得られますので、イベント情報をご確認いただきし、ぜひ当社のセッションにご参加ください。